【25歳・春は嘘つき】

2/2
前へ
/13ページ
次へ
克也と出会ったのは 私が25歳の時だった 共通の知人を通して知り合って 付き合ったけれど 半年くらいして 妻子がいることがわかった 妻とは別れるつもりだから という常套句を信じて 3年という月日が流れた 克也を愛しているかと聞かれたら わからないとしか答えられない または愛していると答えるには あまりにも心地が悪くて そんなことを考えるのを 避けてきたように思う タバコのようなもので 気付くと吸っている 呼ばれれば行ってしまう 体に悪いと知りながら 心に悪いと知りながら 浅はかだとわかっていながら いや 本当はわかっていないのかもしれない それさえも逃げて 考えることを後回しにして 彼に言いたいことは たくさんあったけれど そのほとんどを飲み込んでいた そうやって避けてきたものを かき集めたならば 雪だるまができるだろう 大きくて立派な雪だるまが 彼が突然予定を入れたり キャンセルしたりするから 私の週末はいつもがらんどう 女友達とも会わずに もちろん両親にも話せずに この一人暮らしのアパートで 文字通り一人で暮らしていた そんな私をみち子さんは なぜか気にかけてくれて 電話をよくかけてくれた (彼女はメールができない) ――ね、れいちゃん   こぶしの花が満開で   クロッカスも芽を出したわ   どんな春を過ごしているの? ――ね、れいちゃん   夏休みはちゃんと取れるの?   実家のお母様たちも   心配していると思うのよ 「ね、れいちゃん」 その言葉に 私はいつだって救われた
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加