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克也と出会ったのは
私が25歳の時だった
共通の知人を通して知り合って
付き合ったけれど
半年くらいして
妻子がいることがわかった
妻とは別れるつもりだから
という常套句を信じて
3年という月日が流れた
克也を愛しているかと聞かれたら
わからないとしか答えられない
または愛していると答えるには
あまりにも心地が悪くて
そんなことを考えるのを
避けてきたように思う
タバコのようなもので
気付くと吸っている
呼ばれれば行ってしまう
体に悪いと知りながら
心に悪いと知りながら
浅はかだとわかっていながら
いや
本当はわかっていないのかもしれない
それさえも逃げて
考えることを後回しにして
彼に言いたいことは
たくさんあったけれど
そのほとんどを飲み込んでいた
そうやって避けてきたものを
かき集めたならば
雪だるまができるだろう
大きくて立派な雪だるまが
彼が突然予定を入れたり
キャンセルしたりするから
私の週末はいつもがらんどう
女友達とも会わずに
もちろん両親にも話せずに
この一人暮らしのアパートで
文字通り一人で暮らしていた
そんな私をみち子さんは
なぜか気にかけてくれて
電話をよくかけてくれた
(彼女はメールができない)
――ね、れいちゃん
こぶしの花が満開で
クロッカスも芽を出したわ
どんな春を過ごしているの?
――ね、れいちゃん
夏休みはちゃんと取れるの?
実家のお母様たちも
心配していると思うのよ
「ね、れいちゃん」
その言葉に
私はいつだって救われた
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