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 暗澹とした空には厚い雲が立ち込め、その隙間からわずかに月が顔を覗かせている。しかしそれも束の間、意地悪な雲は隠してしまう。風の流れは穏やかで停滞した雲を押しやろうという兆しは見えない。  僕の隣には彼女がいる。 「流星群は見えそう?」 無邪気に問う彼女。その問いに、僕は言葉を発することができない。彼女の髪を撫でるだけ。 「そっかぁ、お月様も綺麗なんだろうね」 もう一度髪を撫でる。これが目の見えない彼女への、‘イエス’だとか‘はい’だとかの肯定のサインになっていた。  一向に晴れる様子が見られない夜空は恨めしかったが、彼女はその見えない夜空にいっぱいの星と、燦然と輝く月を浮かべているようで、僕は只々黙っていた。むしろこれで良かったのだ、とさえ思った。  彼女は手を組んで祈るポーズを取った。時間的には丁度、流星群が見えるはずの時間になった。 「視力が戻りますように」  僕は反対のことを祈った。今の自分を見られたくなかった。今の自分を見たら彼女は遠ざかるのでは、そんな不安に怯えていた。 「それと、彼が声を取り戻せますように」  間違いだった。僕は自分の事しか見えていなかった。情けなくて、声の代わりに涙が出た。眼尻から星が零れて頬を流れた。 「ほら、流れ星」  驚いて彼女の方を向くと、彼女は夜空ではなく、真っすぐと僕を見据えていた。  彼女は最初からみえていたんだ。僕の心も全部。 「…ありがとう」
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