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長身のイケメンで、女が好みそうな顔や髪型をしている。その癖くしゃりと笑う笑顔は、幼い残酷さが滲んでいるように見え、貞夫は少しだけ怖かった。
さっき、お互いに友達はいないと言ったが、しまの方は自分から友達を作らない主義だったと思われる。対して、貞夫は根暗で理屈屋で、おまけに臆病な癖にプライドだけは高かった。もちろん、女性にモテたことなど生涯で一度もない。だから、その気になれば何でも手に入れられる、しまを羨ましがった。
そんな、しまから何年か振りに電話がきた。貞夫は着信に応じた。
「もしもし、俺だけど」
「よっ、久しぶり。ちゃんと出てくれて良かった。今、暇か?」
しまは、昔と変わらぬ柔らかい口調だった。
「暇か……って、お前いきなりだな。忙しくはないが」
貞夫は、回転椅子の回転軸を揺らした。
「ちょっと、話がしたくてね」
受話器越しの、しまの口元は何だかにやついているように思えた。貞夫は、これは何かネタがあるぞと思い、詳しくは聞かずに返した。
「ああ、分かった」
「じゃあ、とりあえず、いつもの上野駅前の珈琲屋で待ってるから。まだそっちに住んでるんだろ?」
「まあな。あそこだな。わかった。これから向かう」
「それじゃあ、また」
電話が切れた。久しぶりの再会だ。というより、ここのところ知人に会うの自体が久しぶりの行為だった。貞夫は立ち上がって、伸びをすると、外に出るために支度をしはじめた。壁の鏡の中の自分は酷い有様だったが、たかだか同級生に会うだけで女と会うわけではあるまいし、貞夫は無精髭を撫でると、不規則に伸びた髪をそのままに、えんじ色のセーターと灰色のスウェット、その上に黒いダウンジャケットを羽織った。貞夫は欠伸を一つしてから、スマートフォンと財布だけを持って、外へ繰り出していった。
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