第一章 オカルト部の青春

9/38
前へ
/38ページ
次へ
「これ、俺の大好きな本なんだ」 今の時代では受けないであろう飾り気のない表紙に、大きな文字で肉屋に恋をと書かれている。しまは、その本のページをぺらぺらとめくり出した。 「この最後のページの後書きは特に好きだ。実にお前らしいよ、貞夫。人を殺してみたいと思う感情は誰しも持っている」 しまは、最後のページの部分を読み上げた。貞夫にとっては、何の気も無く書いた一行を。 「亜国先生、俺はね。リアリティが欲しいんだよ。偽物なんかじゃなくてね。リアリティ。先生も思っているはずだろう?デジタルばっかで飽き飽きしてるって」 しまは、本を閉じるとテーブルに置いた。 「それにさ、お前、今のところ煮詰まってんだろ?これはいい小説のネタになると思わないか?」 貞夫の言う通り、それは今自分が一番欲してやまないものだった。もしも、この監禁されている男を目の前で見たとすれば、自分はよりリアルなホラー小説が書けるのではないだろうか。作品の表現の向上も望ましいに違いない。本が売れず不眠で精神的にも苦痛な状況下、作品が良くなる材料は、喉から手が出る程欲しいのだ。 「何か企んではいないか?俺をはめようとでもしているんじゃあ無いか?」 「さすが作家様は、想像力がいい。けど、俺は残念ながらはめようなんて気はさらさらない。ただ単に純粋なあの頃の、高校時代の、青臭い春が忘れられないんだよ。それを二人でまた共有しよう。全てが終われば、俺は自首する。お前と関わった事も誰にも言わない。お前はいいネタが書ける。俺は青春時代を味わえる。誰にも損は無い」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加