第一章 智子

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 (第一章) 3日目の早朝、俺は実家に出掛けた。法事があって、一泊だけして、朝一番の電車に乗り帰ってきた。 アパートに近付くと異常な人だかりが出来ていた。 俺のアパートには黄色いテープが張られ、数台のパトカーと救急車、報道の車が停まっていた。 近所の煙草屋のおばちゃんがいたので、後ろから声をかけた。 「な、何があったんですか??」 「あら!アンタ、いなかったの?!大変だよ!アンタの隣のお嬢さん殺されちゃったんだって!」 「え?!と・・川崎さんが?!」 「そうそう、でね、犯人も今捕まったんだよ!」 俺は声を失くしていた。 「犯人、アンタの逆隣の男だったんだってよ!」 俺は急いで自分の部屋に向かおうとした。 黄色のテープをくぐって入った所で警官に止められた。 「あ・・・俺は・・・そのアパートの住人で・・・」 言いかけていたところで後ろから大きくざわついた声とフラッシュの嵐に襲われた。 階段から担架が下りてくる。俺の手から持っていたボストンバッグが落ちた。 智子だ・・・あれに智子が乗っているんだ・・・。 「・・・君!君!」警官の声で我に返る。目で担架を追いながら免許証を警官に見せた。 警官は俺を連れて刑事のとこに連れて行った。 事情を訊かれたが、こっちが訊きたいくらいだと答えた。 最後に智子に会った日と、昨日は実家にいた事を告げた。 少し離れた所に頭を抱えた大家がいた。 やっと平穏な生活が訪れた。 いつも通りの日々だ。智子が越して来る前の。 数日はバタバタした日々だった。警察関係者がウロウロしていたし、 何しろ天井の上をごそごそと調査しているのが嫌だった。 俺の逆隣の佐山には会った事が無い。部屋から出るのを見た事もなければ、出る音も聞いた事が無い。 佐山という名前だという事も、大家の息子だという事もこの事件で知った。 ただ、一日中女の喘ぎ声が聞こえて来る部屋だったという事しか情報はない。 最初は女でも引っ張り込んでいるのかと思ったが、どうやらAVだったらしい。 大家から「今度女性が越して来るから、そんなもんばっかり観ているな」 と言われて智子の事を知ったらしい。 そして越して来た智子を見て惚れてしまい、毎晩毎晩「屋根裏の散歩者」よろしく 智子の部屋まで天井を這って行き、覗いていたらしい。 ところが、その智子が覗いているのが俺だと思っているらしい事に気付き、嫉妬に狂った。
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