第一話

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 彼に会うのは実に葬儀の日以来だった。彼の心中が今どんなものなのか、岩瀬には想像がつかない。  玄関のチャイムを鳴らし、待つ。  この山の夏は暑いらしい。車から少し歩いただけで汗が吹き出るようだ。車の騒音がない分、蝉の声が一層うるさく感じた。  少したって家の中から階段を降りる音と、次いで廊下を走る音がする。そして、 『はい、今開けます』  と、女性の声が聞こえた。岩瀬は胸を撫で下ろす。御堂は、達者に暮らしているのだろう。  扉が開く。隙間から顔を覗かせた女性は、岩瀬の知っている顔だった。  長髪がとても女性らしい、はつらつとしていながら知的な雰囲気。御堂の妻、沙耶だった。  岩瀬は声を失った。事態を理解できずに、ただ沙耶を凝視する。 「あの、何かご用ですか」  小首を傾げる沙耶に、岩瀬は何とか声を絞り出した。 「以前仕事でお世話になった岩瀬と申しますが、こちらは、御堂さんのお宅でよろしかったですか?」  尋ねると沙耶は愛想よく返事をした。 「そうですよ。チーフにご用ですか? どうぞ上がって下さい」  扉を大きく開けて岩瀬を招き入れる。  応接間に通され、ソファを勧められた。 「少々お待ち下さいね」  沙耶は部屋を出ると廊下を走り、階段を上がったようだった。  岩瀬は呆然としながらも今の状況の分析にかかる。
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