第一話

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第一話

 市街地から車で約一時間、M県とY県の県境に近い山中、一台のオレンジメタリックのワゴン車がゆったりとした速さで走っていた。運転手は二十代後半程の青年、名を岩瀬という。  民家が一軒も見当たらない砂利道を延々と走り、やっと視界が開ける。そこに目的地が見えた。  田舎に似つかわしくない純白の建築物。建築家とよほど検討し合ったのであろう美しい外装。  土地は広大なのだから平家にすれば良いものを三階建てにしてある、それは風景を楽しむ為であろうか。  少し離れた道端に車を止め、助手席に置いた紙袋と、橙色をメインとした花束を手に、車を降りる。  この花束はこの家の主人、御堂の妻へのものだ。  彼女は二年前に、病気で亡くなった。  御堂は二年前まで岩瀬と同じ研究都市の研究室に所属していた。  御堂は妻を亡くす一週間前から長らく研究室を無断欠勤し、退職した。  上は御堂を手放す気はなかったのだが、御堂が欠勤を理由に強制的に去ったのだ。彼を失った事を、今でも上は嘆いている。
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