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1.老人の塊
彼は心に犬を飼っていた。
犬の種類はセントバーナード。
でも、彼はセントバーナードを知らない。
セントバーナードを知らないのにセントバーナードを飼っていた。
そんな彼のセントバーナードは大きくて、強い。
しかも人懐っこくて賢い。
色々な芸も出来る。(勿論のことだけど)
初めはお座りに始まり、今はボールが出来る。
この先このセントバーナードは運転も出来るようになるだろう。
運転する車はプリウス。彼のセントバーナードは電気が好きなのだ。
ゆったりとした運転席に座り、となりにはガールフレンドの、もしくはボーイフレンドのダックスフンド。
セントバーナードがアクセルを踏むと周りの景色は過去に帰る。そしてセントバーナードとプリウスと、ダックスフンドだけが未来に進む
開いた窓からは爽やかな風が吹き、そして置き去りの音がする。
ダックスフンドはその景色に興味津々だ。
「君は過去に興味があるのかい?」
セントバーナードはいつも格好つけてそうやっておかしな口調で喋る。
「そうだね。私、または僕は過去に帰るのを求めているのかもね。」
ダックスフンドもこうやっておかしな口調になる。
こんな会話はいつものことで、その度にセントバーナードはプリウスのアクセルを踏むのをやめて、ブレーキを踏む。
プリウスと、セントバーナードと、ダックスフンドは、未来へ進むのを止めて、刹那にとどまる。
刹那にはプリウスしかない。
「そうだね。次はこのプリウスなんかはどうだろう?」
真っ赤なプリウス。
キラキラに光って、ダックスフンドを魅了した。
「いいわ。これで行こう。はやく助手席に乗りたい。」
乗ってきたプリウスはもはや過去に帰った。
セントバーナードは助手席のドアを開ける。
「ふふ。本当に君は運転手になりたいんだね。」
「そうさ。僕は、運転手になるのが夢なんだ。」
ダックスフンドは助手席に乗り込んで、シートベルトをしめる。カチリというシートベルトがダックスフンドの体を守る音が聞こえた。
ダックスフンドは車の後ろから回り込み、運転席側に行くと静かに、そして優雅にドアを開けて運転席に乗り込んだ。
シートベルトをして、キーを回し、エンジンを付けた。
電気の音がする。その音を聞いてセントバーナードの耳はピクピクと震えた。
セントバーナードは電気が好きなのだ。
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