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それから数日立った昼下がり。質屋のおかみが靴屋の主人を尋ね、チキン屋の少年の赤いスニーカーにまつわる顛末を運んできた。
質屋のおかみがチキン屋のママと親しくしている知人に聞いたところ、彼女がブラジルから移住してきた日系二世で、昨年苦労して店を開業し、母一人子一人で暮らしていたという。
しかし、仕事で無理を重ねていた母親は先週過労で倒れ、意識不明の重体で病院に緊急搬送された。
慣れない日本での暮らしと朝から晩まで働きづくめの生活が、少しずつ彼女の体力を奪っていったのだろう。
幸い命は取り留めたもののまだ就労ビザが下りておらず、医療保険が適用外で病院での高額な治療費が払えなかったらしい。
そこで、少年は自分の靴を質に入れ母親の治療費を賄ったという。
質屋のおかみから話を聞かされた靴屋の店主は、顔を土気色にして肩を落とし、少年への大人げない仕打ちを恥じた。
そして、次に少年が店を訪れたら、またあの靴を手渡そうと気を取り直した。
しかし以後、少年が靴屋に姿を現すことは無かった。
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