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シャッターの閉じられた薄暗い店内。
隙間から差し込む光が浮遊するチリを捉えて、棚に並んだ靴をスポットライトのように明るく照らす。
革靴、ロングブーツ、スニーカー。
壁際にはフックに掛けられたサンダル。
どれも薄っすらと白い埃が積もっている。
通りに面したガラスのショーウィンドウの中には、野球やサッカーなどのスパイクからテニスやバスケットなど様々なスポーツシューズが綺麗に陳列されている。
ただ奇妙なことに、ひと際よく目立つ一番高い陳列棚の上には何も置かれていない。
《ブゥゥン》
誰もいない店内の一番奥。
レジカウンターの横に据え付けられた年代物のブラウン管テレビが、闇の中に青白い映像を浮かび上がらせた。
赤茶けた大地を躍動する若者たち。
白線に区切られた空間を歯を食いしばりながら駆け抜けていく姿を映し出す。
《おーっと、これは早い。一人だけ異次元の走りだ。第4レーンは大須のカイブツ、ハーバード瑞樹。笑顔のままダントツの一位でゴールイン。出ましたぁっ。10秒07、大会新記録・・・プツン》
店内に大歓声の余韻だけを残したまま、その古いテレビが点くことは二度と無かった。
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