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―――――― 十年前。
《おーっと、これは大混戦だ。先頭の3人がダンゴのまま横一線でフィニッシュ。一位は、わずかに5レーンの常滑西高校二年の西崎か。タイムは、10秒87。県大会決勝にしてはややタイムが伸び悩んだか・・・》
「フンッ、どいつもこいつも吹抜けた走りしやがって。」
ツヤツヤとした毛の無い頭をゴシゴシと掻きむしりながら額に太い縦皺を刻むと、男はパチンとテレビの電源を消した。
「源さん、好きねぇ。陸上競技ってそんなに面白いかしら。私はサッカーやテニスの方が見ていて余程楽しいけれど。」
「おや、質屋の奥さんいらっしゃい。いつからいらしてたんです?」
「まあまあ、お客そっちのけで店主がテレビに釘付けなんですもの。この間お願いしたの、できているかしら?」
靴屋の主人は、太鼓腹を揺すりながら棚から小ぶりで細長い箱を取り出した。
大きな体を窮屈そうに丸めて屈み込み、箱から光沢のあるパール色のパンプスを取り出すと、四十代後半にしては細く引き締まった婦人の足元に丁寧に揃えて置いた。
「奥さん、これぐらいでいかがですか。」
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