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ああ夜空よ。どうかこの雪を降り止ませて。
私は必死にそう願っていた。まだ冬とは言えない時期ではなかったか。静かで鋭く冷たい雪が体の中へ染み込んでいく。冬にはずっと冬眠している私にはつらいものだ。
お腹も減っていた。今年は食べ物の実りも悪い。もともとこれでは冬を乗り越えられないと焦っていたのに雪まで降ってどうしたらいいかわからなかった。だいたいひとりで冬を超えることすら初めてのことなのだ。
さっきから雪はどんどん強くなっている。空はどこまでも黒い。
気がついたら近くに湖があった。その大きな湖はどこか自分を飲み込んでしまいそうな恐ろしさを孕んでいた。
今日はどこかおかしい。
強い風で揺れる水面に星が映っていた。満天の星だ。偽物の星だ。母親から水面に映るものは本物の星ではないことは教えてもらっている。
あそこに映る星はどこの星だろう。いつもの星は空に張り付いている。だけど今日の空に張り付いているのは雲だけだ。
曇り夜空と満天の、いや、満水の星。
私にとってこの上なく不気味だった。
*****
「うわっ。まだ降っている!」
朝になった。起きたばかりの佐奈美は窓の外を見てそう叫んだ。
「しかも昨日より強くなってる!」
佐奈美は今日も星が見えないかもしれないと思いとても不安だった。だけど同じ部屋の女の子たちはそんなこと思わないようで激しく降る雪を見て歓喜の声をあげた。
百合子だけは佐奈美を慰めてくれた。
「でもまだ朝だしわかんないって。夜には晴れるかも。それに見れなかったらお母さんとかに言って星が見えるところに連れて行ってもらえばいいじゃん」
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