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「ふう、ひどい雨」
あなたは雨に濡れてやってきた。
僕はあなたが来た時、とても驚いた。
それは僕が、生まれて初めて心を奪われたからだ。
あなたは雨を嫌がっているようだった。
綺麗な白いワンピースは濡れて、肌にへばり付いてあなたの綺麗な肌が透けていた。その薄い肌色は僕の心をかき乱した。
黒くて長い髪の毛も濡れていて、僕の心をさらにかき乱した。僕の心は強盗に入られたみたいにぐちゃぐちゃに荒らされた。
「どうもこんばんは。今日はとっても雨が降っていますね」
あなたが僕に喋りかけてくれた。
僕は心の準備など何も出来ていなかった。どんなふうに返したらいいのだろう?いや、考えてる暇などない。はやく返さなければ。
そう思って口を開いた。
「え、ええ。そうですね。今日は天気予報でも雨と言っていました」
なんて気が利かない返事だ。
僕は本ばかり読んでいるのに、喋るのが苦手だ。
あなたがせっかく話しかけてくれたというのに、僕はなんて情けないのだろう。
「そうなんですよね。今日、天気予報でも雨と言っていたんですよね…。でも、私見ての通り濡れちゃって。お恥ずかしい話なんですが、雨と言っていたのに傘を持って行くのを忘れてしまって」
あなたは微笑んでそう言った。
あなたの笑顔はまるで誰も知らない湖のようだった。
それほど、自然な美しさがあった。
「そ、そうなんですか。それは大変でしたね」
また気の利かぬ返事。
「そうですね。割と大変でした。だってそこの駅から走ってここまできましたから。雨に濡れないように」
そういえば駅もあった。
僕は普段バスしか使わないから駅の存在のことを忘れてしまっていた。
そしてそんなことを言った彼女はまた微笑みながら、少し疲れたように持っていたハンカチで体を拭いていた。
「はは。そうなんですね」
僕はニコリと笑って会話を終わらしてしまった。
本当はもっと話したい。だけど僕は何も思いつけない。そんな自分が嫌になった。
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