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大須は愛知県名古屋市の中にある、いろんな面で賑やかなアーケード商店街だ。
昔風情の飲食店や最新の家電専門店、メイド喫茶などがごった煮になったようなひとつの街だった。タイルばりのアーケードを歩けば、奇抜なファッションを楽しめるし、裏路地に行けば焼き魚の煙を腹いっぱい吸い込むことができる。
古いものも新しいものも、どんどん受け入れてしまう、おおらかな街なのである。
したがって、界隈の様子も住民の気質も、開放的で活気に富んでいる。
特に、ブラジル料理店や台湾料理店が軒を並べる一帯は、温かくて旨そうな空気が満ちていた。
そんな一画に、半年前にオープンしたナポリタン焼きそばの店「森森亭」(もりもりてい)があった。
中華麺にナポリ風トマトソースをからめて焼き、和風味付けのもやしとキャベツをトッピングしたB級グルメは、瞬く間に商店街を席巻した。
昼時ともなると、近所の住民や観光客たちで行列ができる盛況ぶりである。
しかし、午後二時半をまわると、客の姿もめっきり少なくなって、ようやく従業員たちも一息つける時間帯になる。
従業員といっても、女将の山縣澄江と娘の深雪、アルバイト学生の伊東せな、全部で三人しかいない。なにしろ間口の狭い店舗である。カウンター席とテーブル席が三セットの小さな店だった。店の規模と客の回転数から考えると、それだけの人数で充分に賄えるのだ。厨房内は女将の澄江が切り盛りし、深雪と伊東せなが注文とりとレジ打ちを担当していた。
三人は遅い休憩時間にはいった。この時間帯に来客がないわけではないけれども、取れる時にとっておかないと、いつまた忙しくなるかわからない。
深雪は、近所のブラジル料理店でチキンの丸焼きを買って来ると、食用はさみで肉を細かく切り落とした。母親の澄江が白飯とレタスとキャベツの千切りを用意した。三つの大きな皿に、手際よく賄い飯が盛り付けられていく。
澄江がパリパリのチキンを頬張りながら、かたわらの絵葉書を手に取った。娘の深雪に宛てたものである。
北海道札幌の白い時計台が写っている。
差し出し人は持丸勝也。山縣深雪の婚約者。母親の澄江、父親の順三郎は彼を気にいっている。彼は家族も同然だという思いこみがあった。だから、娘に届いたはがきは家族のものだと錯覚している。
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