君にもう一度あの歌を

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時刻はもうすぐ三時だった。いつもなら母親の作ってくれた弁当をスタッフルームでかきこむのだが、急な出勤のためその弁当もない。 ランチタイムはとっくに終わっているので、梨花子がよくいく店の選択肢は少なかった。新天地通にある純喫茶フジシロでホットケーキを食べよう。あそこならいつも空いているから少しは落ちつけるはずだと、財布だけ掴んでウルトラメガネ大須店を出て東仁王門通を歩き始めたところで、梨花子の今日のなけなしの運は尽きた。 聴いてはいけない。観てはいけないと思えば思うほど耳も目も身体もそちらへ向いてしまう。 昔からそうだった。怖いものや気持ちの悪いものほど無意識に見聴きしてしまい。固まって動けなくなる。 小学生の時、通学途中に出くわした毛虫。自然界から出たものとは思えない配色で、1センチくらいの長さの細い毛にびっしりと覆われたそれを見つけた時も動けなくなって、友だちが目隠しをしてくれて、呪いがとけるように身体が動き出したこともあった。
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