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大久保と思わぬ再会をした梨花子はしばらくは緊張していたが二週間もすると仕事や日常の雑務に追われ、そのことを気にかける時間が少なくなっていった。そんな平日の午後、梨花子は店のカウンターの内側に座り、対面のお客様席に座らせた新人の伏見亜里沙に指導をしていた。
伏見は明るくハキハキとした受け応えのできる社員なのだが、そそっかしい。あの日お客様のクレジットカードを一桁多く切ってしまったのも他ならぬ伏見だった。
「伏見さんはこのチェックを特に忘れないようにね。それから、さっき荒畑さんのお客様が来たのに、すぐに荒畑さんを呼ばなかったでしょう? ああ言うのはやめなさい。荒畑さんのお客様は荒畑さんに対応して欲しいから」
伏見は納得がいかないようで、唇をとがらせた。
「そんなこと言ったら……。私、いつまでたっても売上あげられないじゃないですか。チャンスだと思ったんです」
「そんなチャンスは、ピンチにしかならないよ。新人の伏見さんが荒畑さんより、そのお客様のお好みを知っているとは思えないし、何よりそんなことしたら、伏見さんが困った時に荒畑さんは助けてくれなくなる。それじゃあ、店長の私が困るの」
伏見は納得したのか、下を向いて小さく「すみません」と言った。そそっかしく、少し向こう見ずな所もあるが、梨花子は伏見のこういう素直さを気に入っていた。
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