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おそるおそる、あの子が飛び降り自殺をしたビルの位置を聞いてみると、それは間違いなくさっき自殺者騒ぎが起きたビルだった。
二年前に後輩の元カノが自殺をしたビル。だとしたら、さっき飛び降りた人物というのは…。
翌日、出社と同時に後輩が自殺したという話を聞かされ、その数時間後には、刑事が話を聞きたいと訪ねてきた。
刑事の話によると、現場には遺書が残されており、家族や職場、友人などに迷惑をかけることへの詫びと、それでも、彼女と二人、あの世で幸せになりたいという一文が綴られていたという。
だが、いかにも心中内容の遺書なのに、その場には他の誰かがいた形跡がなく、一緒に死ぬ筈だった女は誰なのか、もしや事件性があるのではないかと、こうして関係者に聞き込みをしに来たらしい。
脳裏に、後輩の元カノのことが一瞬浮かんだが、俺はそれを刑事には話さなかった。
二年も前に死んだ女の子。でも後輩にはその子が見えていて、相手の悩みに同調し、ついには死さえ選んでしまった。
二年も経ってからの、本来再会することなどなかった相手との心中なんて、話しても信じてもらえないだろうからな。
きっと真相は俺以外知らないまま、この件は単なる自殺として片づけられることだろう。
俺は俺なりに色々と忠告した。それでも結果はこうなった。だからこの件は『どうしようもなかったこと』と思うべきかもしれない。
それでも、聞かされたこの結果に、本当にどうしようもなかったのかと思ってしまう。
どうしようもなくもやもやするから、警察の規制がなくなったら、後輩が自殺したビルに花でも手向けに行こうかと思ったけれど、気持ちに引きずられ、俺でも心中仲間になる可能性もあるからな。
せめて、四十九日くらいまではお前の冥福を祈ってる。それで許してくれよな。
心中…完
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