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タンゲが軍の士官学校を卒業する前日の夜のことだ。その日、タンゲは昼から、卒業者全員が集まる入軍に際しての説明会を受けていた。会には普段めったにお目にかかれないような将校も数名来ていた。プログラムは次々進み、最後にその将校の中の一人が壇上へ上がり、一〇分ほど喋った。将校の話は、自己啓発の勧めから始まり、激励の言葉で締めくくられた。高い地位と知名度を持つ将校の言葉に、卒業生たちは尊敬と憧れの念を持って聴き入った。
閉会は午後五時過ぎだった。参加者は寮へ戻るなり、繁華街へ遊びに出かけるなり、それぞれに解散した。タンゲはというと、僚友の誰にも声をかけられないよう一人そっとそこを離れ、寮とも繁華街とも違う方向へ繰り出した。彼は一人でそぞろ歩きがしたかったのだ。将校の演説を聴いてから高揚が収まらず、そのことについて一人でじっくり考えたかった。考え事はいつも外で歩きながらする。五人共同の寮部屋にはたいてい誰か居るからだ。散歩道には寮から離れた住宅街を選んだ。知り合いに目撃され、考え事を邪魔される心配の無いようにだ。
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