月は無慈悲な夜の悪魔

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 アーノルド・L・リーバーのバイオタイト理論。  それは、月と人間の行動の関連を説いた理論で、日本でもひと昔前に騒がれ、月のパワーとやらを信じる人が増えるきっかけとなったらしい。  満月の日には、犯罪率が増えるとか、交通事故が増えるとか。  月は人々の心を狂い惑わす悪魔なのだ。  けれど、そんなもの、何も根拠はない。  私はそんな理論を信じてなどいない。満月の日に犯罪が増えるのは、単に太陰暦を採用し、その日が給料日や祭典の多いインドで統計を取ったから。交通事故が多いのは、霧に月の光が乱反射して、満月の時ほど逆に視界が悪くなるから。  満月はただの人間には影響を与えない。  満月の力に惑わさられるのは貴方のような化物だけ。  私は、満月から何の力も貰わない。  それが、酷く辛い。  泣きながら、私は走った。  深夜の誰もいない路地を。寝静まった街の中を。頼りなさげに明かりを灯すコンビニエンスストアの前を。  当てもなく、貴方を探して。  貴方は私に何と言うのだろう。  私は最初に貴方に会ったとき、ようこそ、と言って貰いたかったのかもしれない。ようこそ、死を愛す同士よ。ようこそ、こちらの世界へ。  現実は違った。  私と貴方は決定的に違ったのだ。  私は願う。月に。力を下さい。私を彼と同じにして下さい。  同じ、化物に。
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