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パトランプが迫ってきていた。
人間の足では車からは逃げられない。
あっという間に私は追い詰められていた。
白と黒の車。回る赤いランプ。
「動くな」
3台のパトカーが私を取り囲む。次々とパトカーから警察官が降りてきて私との距離を詰めてくる。
普通の警察官だ。私を追ってきたのは怪捜の刑事ではない。
「何で怪捜じゃないの……?」
ぼそりと私は歯噛みした。
「滝澤笑子、傷害罪と公務執行妨害で逮捕する」
当たり前だ。人間の私を逮捕するのは普通の警察官だ。怪捜は関係ない。
私はがくりと地面に膝を着いた。
「お前は余罪が疑われている。署で話を聞かせてもらうからな」
私は肩を掴まれ、乱暴にパトカーの中に押し込まれた。
両隣を警察官に挟まれ、連行されていく。
車の窓から満月が見える。
月はなぜ、私に何の魔力も与えてくれなかったのだろう。私がもしも化物だったら、貴方の苦しみを分かってあげられたのだろう。
何とか言ってよ、悪魔さん。私はどうしてただの人間で、異常な人間なの。
「ぎゃっ!」
私は思わず、隣にいた警官の首に噛み付いていた。警官の悲鳴が上がる。
「こいつ、噛みやがった!」
どくどくと警官の首から血が流れる。
不味い。鉄臭さ、生臭さしか感じない。
「くそっ、痛えな、このっ!」
警官に頭を押さえつけられて、身動きが取れない。口の中には不快感しかない。当然だ。私は吸血鬼ではないから。
『怪捜より全車両に通達――容疑者はいまだ逃亡中。周辺住民の避難を――』
ノイズと共に警察無線が流れる。どうやら貴方は逃げているようだ。
私は夜空に願う。
滲んだ視線の先に揺らめく月明かりはどこまでも冷たくて、遠かった。
どうか、私を貴方と同じ化物にして下さい。
Fin.
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