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私にとって、周りの人間は全く理解できない存在だった。裏を返せば、私はとても変わった子だった。その私の変な部分を私は必死に隠して生きてきていた。
思えば、私はずっと探していたのだ。私のこの変な部分を解ってくれる存在を。もっと言えば、私は私と同じ存在をずっと探していた。
そして、出会った。
思い出話をするとすれば、今からちょうど10年前の、あの事件の夜が相応しいだろう。
当時、15歳だった私は、謂わば悲劇のヒロインというやつだったのだろう。いつか、白馬に乗った王子様が助けてくれるという他力本願な思いを抱えていた。幼くて、醜くて、青臭くて、でもどこかでそんな自分に諦観を覚えていた気もする。
まあ、それも仕方がないかもしれない。私は変わった子だったから。
ただ、悲劇のヒロインというには私は血生臭すぎた。
あの夜もまた、満月の夜だった。
「はあっ、はあっ」
荒い息遣いがふたりの間を行き交っていた。
その息遣いは、ふたりの人間が生きていて、生存欲求に従っていることを意味していた。
「そのナイフを放せ」
荒い息遣いから漏れる威嚇の声。私はというと、手に食い込むほど強く――震えを抑えようと必死だったのだ――ナイフの柄を握り締めていた。
既にそのナイフにはベッタリと血が付着し、その血はというと、私の脇腹辺りから流れ出ているものの一部だ。私は、目の前の男に切られたのだ。
私は沈黙で返す。拒絶。唯一の武器であるナイフは渡さない。
「いいから、放せ」
田舎の深夜の通り。周囲を田んぼに囲まれ、壊れた蛍光灯が明滅し、人気などなく、月明かりだけが辺りを照らす静かな夜に私は、知らない男と対峙していた。
金髪で、軽薄そうで、髭を生やした20代前半くらいの男は私と同じように呼吸を荒げている。私は目の前の男の隙を突き、ナイフを奪い取ったのだ。もう放すわけにはいかない。放したら、殺される。
ゾクゾクとした感覚が背中を這い登ってくる。
それは、私の白いワンピースを赤く染める液体が流出したことによる体温の低下がもたらしたものなのか、それとも絶望によるものか、あるいは――。
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