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「貴方と一緒。抑えきれないの」
ゾクゾクとしたものが背中を這い登ってくる。それは、殺意。誰かを殺したい。
そんな青春。誰にも言えない、真っ赤な青春。それが私。
私にとって男からナイフを奪い返すことなんて容易かった。男に切られた反動で私は地面に倒れ込んだけれど、すぐに体勢を立て直すと、素早く男の懐に入り込み、体当たりをした。私の体は小さく華奢だが、男のバランスを崩すには十分な威力だった。私が男の腕を掴んで捻り上げると、男は簡単に私のナイフを落とした。
私はそれを空中で掴むと、男の腕を放して、男に蹴りを放つ。男は尻餅をついて倒れ、私は男と距離を取った。
これが先程、私が男と対峙することになった一連の流れだ。
「そうか」
私の言っている意味を察したのか、貴方は意外そうに目を見開いた。こんな幼い少女が殺人鬼だったというのは狼男にとっても意外だったらしい。
「私は笑子(えみこ)。貴方の名前を教えて」
「……肇(はじめ)だ」
陽が昇り始めていた。
ふたりの日々はそこから始まった。
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