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「愛してる」
その言葉を私達は幾度となく累(かさ)ねてきた。
互いに秘密を抱え、今まで生きてきた。恋人、同士、家族――私達にはどの言葉も当てはまるようで当てはまらない。
彼がどうして私を好きになってくれたのか、結局のところ私には分からなかった。孤独を埋めるのに都合がいい女だったから?
それでも良かった。私と彼が同じなら。そこに惹かれ合ったのだったら。
……同じだと、思っていた。
でもそれは私の思い違いだった。
私は今日も月を見上げる。
貴方はまだ帰ってこない。
満月の夜に私の前から姿を消すのは、貴方の優しさ。私に危害を加えないように、月が上る前から何処かへ貴方は消える。
そしてまた、人を殺しているのだ。
なぜ、私と貴方は満月の夜、一緒にいられないのだろう。
同じだ。
抑えきれない情動に突き動かされ、誰かを殺す。
同じはずなのに。
貴方の虚ろな目。
私と違う。
私の喜び。
貴方の苦しみ。
貴方は、好きで人を殺しているのではない。
そのことに気付いたのは、互いに何人も殺した後だった。
貴方は、私の側にいてくれる。それは優しさ。愛。
貴方と私は確かに似た境遇だった。でも、決して同じではなかった。
貴方の虚ろな瞳の奥に宿る軽蔑に私が気付かないとでも思ったのだろうか。
同じになりたい。
月を見上げる。この日だけは、私と貴方の差を思い知らされる。
月は無慈悲な夜の悪魔だ。
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