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「肇さんとアンタ、同棲してるよな。その肇さんのことでちぃとばかし聞きてえことがあんだけどよ」
「七瀬さん。もう少し丁寧に」
「んなこと言ってられっか、新米が。殺しが起きてからじゃおせえんだよ」
七瀬という刑事と若い蓮見という刑事が言い争う。
「すみません、何の事だか分かりませんが、帰っていただけますか。この部屋には私以外誰もいませんよ」
「だろうなあ。何せこんなに月が綺麗な晩だ」
私の心に七瀬の言葉が突き刺さる。
満月の夜は思い知らされる。快楽で人を殺す私と、苦しみながらも狼男として生きるために仕方なく人を殺す貴方との差を。それに気付いてから、私は人を殺すことに躊躇いを覚えていた。
同じになりたいのに。
同じになれない。
殺したくないのに殺す。
殺したいのに殺したくない。
「こんな夜に、一緒になんか、いられないよなあ」
その言葉に、私は激昂していた。
「うあああああっ」
ズボンに挟んであったナイフを手に、七瀬に向かって飛び付いた。
「ぐっ……!」
七瀬の口から空気の漏れるような音が響いた。
「七瀬さん!?」
蓮見が叫ぶ。
七瀬の腹部には深くナイフが突き刺さっていた。
ああ、久し振りの感覚だ。
七瀬がよろめいて、玄関に膝を着く。みるみる彼の白いワイシャツが汚れていく。
血に塗れる喜びを噛み締めるが、すぐに理性を取り戻す。ここは、逃げなければ。
私は七瀬を支えようとしてた蓮見を押しのけ、部屋を飛び出した。
「あっ、待てっ」
私は駆け出した。アパートのボロボロの階段を音を立てて駆け下り、道路に飛び出した。そして、全力で走った。
月は冷たく夜空で輝いていた。
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