お喋りはお茶の前に

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  「どうかしら」  手鏡で見せるとお喋りがやみ、鏡と指で襟足の具合を確かめ始めた。  たしか去年の夏も、剣術の達人の所へ住み込みで弟子入りしていた。  しかしこちらも、きっかり一ヶ月で真剣を抜かれるほど怒らせ、破門されたという。  本人はといえば、機嫌良く一人で帰ってきていた。  思い出して、嬉しくなる。  小さな頃から見ているが、まだ懲りる様子は無いようだ。 「あなたはほんとうに元気ね」  言うと、前髪をつまんだまま、変な風に口を曲げられた。  まっすぐに揃えたのが嫌だったのかしらと、また鋏を手にする。  櫛を入れると、庭の先から声をかけられた。 「邪魔するよ」 「あら、姉様」  遠慮なく入って来た女性は、テーブルへ包みを置く。  そばの椅子へ腰をおろすと、悠々とロングスカートの下で足を組んだ。 「へぇ、短くしたね」 「ええ」 「こりゃ引っ張られる心配も無いわ」 「可愛いでしょう?」 「これを可愛いって言うのは、あんたくらいよ」  それぞれ笑う姉妹には、本人の機嫌の傾きようなど目に入っていないらしい。 「……何しに来たんだよ」  険悪な声を向けられ、姉が肩をすくめた。 「そりゃこっちの台詞さね。あたしは可愛い妹の所へお茶しに来たのに、何で稽古へ出たあんたが居るんだい」 「そんなの勝手だろ」  むくれて黙られる。  それでいきさつを察し、ふぅんと眉を上げた。 「姉様」  口を開くより先にたしなめられ、またあんたは甘いんだからと、目を細くする。 「悪さは軽いうちから言っとかないと。  あんたんとこのあれも、昔はだいぶ悪さしてただろう?」  言って、ああそうかと思い出し、姉は笑いの具合を変えた。 「そんなのを飼う定石は、『愛という名の檻に入れる』ってやつかい?」 「まあ」 「王子様に首輪つけて、鎖握ってんだろう?」  からから笑われる。  しかし彼女は夫を思い出し、ふんわりと笑った。 「王子様。いいわね」  姉が肩をすくめるのも気付かず、また鋏ばかりが動く。  
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