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適わないと判っているのに、言う価値なんてあるのだろうか。
あるとすれば、それは一体何なのだろうか。
心の中で何度も自問した。
「あっ」
突然頓狂な声を上げて、相楽が身を起こした。
「鬼防君に一つお願いがあるんだ。結城君と、彼の従兄の家まで行ってくれない?」
「なぜ?」
「彼の本棚の、上から二段目。その左端に、小さな日記帳があるんだけど。それを鬼防君に持っていてもらいたいんだ。まさか母親に読ませる訳にはいかないし、結城君も辛くなるかもしれないし」
「それで? 俺に読めと?」
「そう。彼の『想い』を受け継いであげてよ」
ウソだろ、と絶句していると、相楽はクスクスと笑いだした。
「あのね。本当は、その日記の中には、僕が『いた』証が記されているから。それを鬼防君が持っていて」
約束だよ、と言って崇生から離れていく。
「そしたら鬼防君が僕を忘れても、日記帳には『僕』が残っているから」
「忘れないよ」
間髪入れず答えた崇生に微笑んでから、「僕の存在を知ってくれるでしょ?」と続けた。
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