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「清宮、これ作ってくれない?お前速いだろ?」
「発注書は無いんですか?」
「ない………もう今日中に撒くから印刷する暇無いし出力する、頼むよ!」
婦人雑貨の吉川が手書きの荒いラフを見せて今すぐ小さなチラシを作ってくれとデザイン部に直接持ち込んだ。
デザイン部は商業施設の組織に組みしているが外部の仕事も取る独立法人な為、手順としては各管理職の判子が付かれた正式な発注書がなければ動けない筈だがこんな事は日常茶飯事だった。
やりたくなくても………むしろ出来なくともやらなければならないのは分かってる
仕方なくラフ通りに簡単なチラシを制作した……吉川の見ている前で………
内容はクロコダイルハンドバッグ30000円
300000円が正しかった(らしい)
デザイン部は元より、販売促進部担当者、課長、部長、婦人雑貨担当者(吉川本人)課長、部長(つまり熊川部長)最終は店長まで判子を押して確認している筈なのに誰も気付かず外に出てしまった、写真も載せた為少なくとも一点はその値段で販売しなければならない
事務所から売り場に聞こえるのでは無いかとハラハラする位のボリュームで怒鳴りつけられ、頭を低くして吠えるクマを思い出しながらずっと落ち着くのをひたすら待つしか無かった
「悪かったな清宮、大丈夫か?」
「勘弁してくださいよ、吉川さんの手書きラフを見直してもゼロの数3万にしか見えないし……、それにあのチラシ30万のデザインじゃないですよ」
「熊川部長だって判子押してるくせにな」
「これからは真っ当な発注書持ってきて下さい、この手のミスは冷や汗かいて倍疲れるんです」
吉川は笑い声をたてたが自分の事じゃないから呑気なものだ、確かにタイプミスなどは防ぎきれない、時たま…………いや、はっきり言って頻繁にある
「文字の打ち間違いなんて日常茶飯事じゃないか、慣れてんだろ」
「やめてください冗談じゃないですよ」
「今回ぐらい大きいのはめったにないけどな」
「………もう死にたい」
「清宮!………」
吉川に腕を引かれてハッとした
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