転校生

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転校生

 ゴールデンウィークも開けて、新しい学校、新しいクラスメイトにも慣れてきた頃、それはやってきた。  「他県からお父さんの急な転勤で、うちの高校に転入してきた工藤君だ」  「工藤です」  そこは東京郊外の、のどかな新興住宅地にある都立高校だった。一年生の今野美咲は、その工藤という転校生を、窓側のいちばん後ろの席から眺めていた。  教室の中で空席は美咲の隣だけだった。だからここに座るのだろう。それはいいのだが、  「工藤君、もう少し自己紹介を・・・その、フルネームもまだ言ってないし」  困ったように促す担任を、冷ややかな目で見ながら、工藤は続けた。  「工藤、一雅です。もういいでしょう、僕のことは、明日になればみんな知ってますから」  そして、本当にそれ以上語る気は無いという無言の拒絶。教室に数秒の気まずい沈黙が流れた。  「席、あそこですか」  工藤が、美咲の隣の空席を指した。  「あ、ああ、そうだ、今野さん、よろしく頼むよ」  何だこの人、完全に変なの押し付けられた。長身で髪が長く、ちょっと不良っぽいハンサムなこの転校生は、もう少し愛想がよかったら隣に座ることをクラス中の女子がうらやむことになっていただろう。しかし、今美咲に向けられているのは憐れみの視線だ。慣れ始めたクラスでの自分の立場を考えたら、妬まれるよりはいいのかもしれない。  「今野美咲です。よろしく」    美咲は何とか笑顔で挨拶した。自分の笑顔が男子のココロをときめかせることには密かな自信を持っていたのだが、工藤は無言のまま席についた。  全く、頭にくる、変なというか完全に性格に問題のある無礼な転校生。美咲はそう思ったし、担任やクラスメイトもそう思っていただろう。少なくとも、この日だけは。  
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