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サングラスだけに限らず倒れていた男たち全員が同じように体を掻きむしり叫び始める。「嫌だ!」「死にたくない!」「やめてくれ!」「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」それぞれが無茶苦茶に叫び機関銃を乱射する。流れ弾が男たちの体を撃ち抜き次々と倒れていく。僕はそんな状態に気づくこともできずにただただ恐怖に叫ぶ。 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 突然。僕の体が誰かに押し倒された。薫だ。 「大丈夫。大丈夫だから。落ち着いて。大丈夫。君は死なない。私が守るから」 薫が真剣な顔で僕に優しく言う。こんな状況には似合わないほどの落ち着いた声で優しくなだめる。次第に。自分の心が落ち着いてくるのが分かる。口から漏れ出ていた叫びもいつの間に収まっていた。 「大丈夫?」 薫が僕を見つめて言う。僕は小さくうなずいた。 「よかった……」 すがるように僕にもたれかかってくる薫を見つめながら僕は惨劇の舞台を呆然と見回すしかできなかった。 **************************************** 「それで。どうなったのかね」 校長室で須つを着た男が聞く。薫は淡々と報告をする。 「襲撃してきた人間は全員死亡。彩音教員は重症を負ったものの命はとりとめました」 「やつらの狙いは例の能力かね」 「おそらく。孝也の能力が感情の感染だと知っていたのでしょう」 感情の感染。それが孝也の本当の能力だ。孝也が感じている感情を周囲に感染させ同じ気持ちにさせる。何より恐ろしいのはその感染速度だ。周囲15mの人間に瞬時に感染し感染者の周囲も瞬時に伝播させる。制限なく感染すれば世界中に広がるまで数日かからないだろう。 感情は人間の行動原理だ。それを操ることができる孝也の能力は実質その気になれば世界すら掌握できてしまう。しかし、一歩間違えればあの男たちのように恐怖を感染させられて世界中がパニックになり滅んでしまう。止める手段もなく。 薫は孝也のストッパーとして配置された人間だった。親しい人間になりいざという時、孝也の感情をコントールするのが仕事だ。
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