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物を動かせる者は手のひらから電磁波のようなものを発生させることができる。あくまでようなものだ。その波が物体の物理法則に干渉して物体を動かしていることが分かっている。 同じような能力でもそれぞれ能力を発生させている原因が違うと言うことも多々あった。研究者たちは興味深く関心を持って研究を進めていた。 とはいえ、研究対象は人間だ。人権というものがある。少なくともあると世間的には言われている。研究者たちも無理やりな実験を表立ってできなかった。表でできないということは裏では行われているということだ。 裏で動きがあるということはそこにビジネスの種が転がっていると言うことでもある。かくして、能力者の子供たちは拉致され高値で売り飛ばされるという問題が多発した。 先進国はこれを見逃すわけにはいかなかった。非人道的な行為として能力者売買を全面的に禁止するのはもちろんのこと、能力者の子供達の安全を確保するために、能力者たちを一か所に集めて国が面倒をみることにした。 日本では沖ノ島と呼ばれる孤島がその場所だった。 僕たちが住んでいるこの島の事だ。 「君たちは国から守られている私達の宝というわけです」 教室の前に掛けられた電子黒板に彩音ちゃんが文字を書き込みながら言った。 「何が、宝だよ。俺らをここに閉じ込めていいように使っているだけだろうが。な。孝也もそう思うだろ?」 隣の席の雄二が小声で耳打ちをしてくる。僕たちの生活は国に保障されている。この沖ノ島にいる限り学費、医療費、住居費、生活費が保証されている。ただし、条件としてこの島から外には出ないこと。また、体力測定や健康診断という名の研究の手伝いが義務化されている。人権を守りながら研究を進めることができる人道的処置というわけだ。 この沖ノ島が別名「監獄島」と皮肉で呼ばれている理由でもある。生まれた子供の能力があると分かった時点で国から家族ごとこの島に強制的に移住させられる。だから、僕たちはこの島の外の事を知らない。 そのことに不満を持ち国に反発する人間は多い。雄二の言い分はこの島の子供達の中では一般的なものだ。 でも、僕はこの島の事を実は気に入っていた。
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