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島の外に出なくても大概のものは島の中心にあるショッピングモールでそろうし、インターネットもある。海は近いし空気はうまい。夜が静かなのも好きだった。特に生活には困っていないし、わりとゆったりとした空気の流れているこの島の雰囲気が僕には性に合っている。 「でも彩音ちゃん先生に宝と言われると悪くないな。むしろ、彩音ちゃん先生の胸のほうがこの国の宝だ」 雄二が彩音ちゃんの胸元のふくらみを凝視しながらうんうんとうなずく。僕は苦笑しかできなかった。彩音ちゃんは去年この島に赴任してきた社会の担当教員だった。まだ大学を卒業したばかりで23歳の若い先生だ。派手さはないが幼さの残る顔とスタイルも良く、人当たりの良くサバサバした性格で男女共に人気があった。 ただ、生徒との距離が近く親しみやすいため、先生と呼ばれるよりも彩音ちゃんと呼ばれることのほうがおおい。 「ほら、そこの二人! 私の胸ばかり見てないで声も聴く!」 僕と雄二を指さして彩音ちゃんが叫ぶ。クラスがどっと笑いに包まれた。 「やべっ。バレてたよ」 雄二が頭を掻きながら舌を出す。 「僕は別にみてなかったんだけど。とばっちりだよ」 「まぁまぁ。孝也と俺は一心同体だからな」 「気持ち悪い事言うな」 半眼で睨みつけると雄二は肩を竦めてにやりと笑って見せる。なんだそのヤレヤレ感は。むしろその顔は僕がするべき表情だろうが。 くすくすと後ろの席から押し殺したような笑い声が聞こえる。 「君たちは本当に仲がいいよね」 幼馴染の薫が口元を抑えながら言った。 「マブダチだからな!」 「という設定だ」 「ひどいなお前!」 雄二が叫んで立ち上がる。クラス中の視線が雄二に集まる。いつのまにか彩音ちゃんが目の前に立っていた。その額には青筋が浮かんでいる。僕と雄二は顔を見合わせる。 「彩音ちゃん怒ってる?」 「ほお。お前には怒ってないように見えるのか?」 「雄二がうるさいからだぞ」 僕がすかさず責任を擦り付ける。 「お前もだ。孝也」 「俺は何もしてないよ彩音ちゃん」 「連帯責任だ! あと彩音ちゃんじゃなく先生と呼べ!」 丸めた教科書で頭を思い切りはたかれる。 「二人とも放課後職員室に来い」 『えー』 雄二と声がハモったことでまた薫がくすくすと笑った。
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