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「孝也!」
校門を出ようとしたところで薫に声を掛けられた。校門の壁に預けていた背中を離すと僕たちのほうに駆け寄ってくる。
「随分おそかったじゃない」
「彩音ちゃんの部屋の掃除を手伝ってたんだ」
「……ああ。彩音ちゃん実は片づけ苦手な人だからね。私も前に手伝ったことあるけど大変だったもん」
もう二度と手伝いたくないと思う程度には汚れていたと言うと薫はくすくすと笑う。
「あのー。一応俺もいるんですけど。いちゃいちゃするのやめてもらえませんかね」
雄二が困ったように自分を指さしながらおずおずと言う。
「あ、雄二居たの?」
「お前たち二人は本当に俺に当たりがきついね」
「愛されてる証拠だろ」
「本当かよ」
僕たち三人は下らない話をしながら帰路につく。薫とは子供のころからの付き合いだった。物心ついた時にはこの島にいた僕と、同じく子供の頃にこの島に連れてこられた薫は住む場所が隣で、両親たちが意気投合して仲良くなったことから頻繁に会うようになったのだ。
雄二と出会ったのは中学に上がってからだったが、話してみてすぐに気が合った。まるで昔からの友達だったかのような気持ちを感じた事を今でも覚えている。僕たち三人が一緒に行動するようになってからすでに4年の月日が流れようとしていた。
いつもの光景。いつものおしゃべり。楽しくて平凡な日々。それは僕にとってかけがえのないものだと思っていた。
「私も何か能力があればよかったのにな」
薫が後ろ手を組みながら言う。
「またその話?」
薫は能力を持っていない。この島にいるのは弟が能力を持っていたからだ。家族としてこの島に来たのであって彼女自身に能力はない。僕たちの能力の話を聞いて彼女は昔から羨ましがっていた。
「能力なんてあっても役に立たないよ」
僕は何度目か分からない同じ答えを薫に返す。
「実際役に立たないしな」
雄二を苦虫を潰したような顔で同意する。雄二の能力は時間跳躍。いわゆるタイムトラベルという奴だった。能力を持った子供が生まれ始めた時にもっとも懸念された能力のひとつ。時間に干渉する能力。
この能力を持っていると分かった時、雄二の周りは大変だったらしい。なにせ世界をひっくり返しかねないほどの能力だと思われたからだ。
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