5人が本棚に入れています
本棚に追加
白石葉子(しらいし・ようこ)、通称ハコは夕暮れの商店街を走っていた。
蝉の声が耳にうるさい。
息は切れ、疲労で真っ直ぐに走れていない。
ずっと走っていたのだ、無理もない。
商店街はここのところ人通りは少なくなったが、店は変わらずに開いている。
古くから続く商売を一日たりとも休んではならないと思っているからだろう。
特に、こんなときは。
「おう、ハコちゃん! 久々に良い魚が入ったって、母ちゃんに伝えといちゃくれねぇか!」
顔見知りの魚屋が声をかけてきた。
ハコは足を止めると息を切らしながら、
「う、うん、あとでお母さんに伝えとくね! お父さんが帰って来たの!」
「お、旦那も戻ってきたか。まったく、帰ってくるのが遅いんだよ、あの人は……昔からそうなんだ。仕事が大事なのもわかるが……」
なにやら話が長くなりそうだ。そんな空気を感じ取ると、
「あ、あの、おじさん、私、急いでるから!」
「おう、そうか。気をつけてな!」
「うん、アリガト!」
魚屋の話を半ば打ち切るようにしてハコは道を急いだ。
時間が少しでも惜しい。
最初のコメントを投稿しよう!