夜空に願いを

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 それというのも、数年振りに親友が町に戻ってきたからだ。  商店街を抜けたところに、古めかしい佇まいの寿司屋はあった。  ビルの多い中、今も瓦屋根の小さな店。  扉には「本日休業」の札が吊り下げられている。  その一軒の寿司屋の暖簾に飛び込むようにして彼女は店内に入った。  テーブル席が数席という小さな店構え。  カウンター席には懐かしい横顔を発見した。 「上山君!」 「よぉ、ハコ。ただいま」  振り向いたのはハコの親友である上山健(かみやま・たける)だ。  カウンターの席に座り、片手に持つ湯呑みを挨拶代わりに振る。  数年前に旅立っていったときと変わらない元気そうな親友の姿にハコはホッとする。 「お、おか、おかえり……」  息を切らしながらカウンターへ向かうと、 「おう、ハコちゃん、これでも飲みねぇ」  威勢の良い上山の父が、水の入ったコップをカウンターに置く。  この寿司屋は上山の実家である。
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