変わらないドール

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                ***** 「マスター? 眠っちゃったの?」  穏やかに日差しが降りそそぐ寝室には、ドールである彼女、アンジェリカと、その主人である老婆がいた。  幼い少女の姿をしたドールは、言葉を発しなくなった主人を眺めた。  つややかな黒髪は少しずつ真っ白になり、年を経るごとに、細く、小さくなっていった《マスター》は、皺にうもれた口元に微笑をたたえ瞼を閉じている。 「おやすみなさい、マスター」  アンジェリカはいつかマスターに教わった子守唄を口ずさむ。  ーー変わらないで。  セキュリティロックをかけたマスターからの『お願い』を再生しながら。  変わらないでと、少女だった頃のマスターは願った。皆、私のことなんて嫌いなんだと泣きながら。    優しかった両親は、いつの間にか少女よりも仕事を優先するようになった。  親友だった女の子は、少女が引っ越した後、別の『親友』を見つけたらしい。  変わってゆく。少女を置きざりにして、皆変わってゆく。  だから少女は願った。自分の大事な友達であるドールに、『変わらないで』と。  ーー静かな午後の寝室に、旧式のドールの子守唄が流れる。  時折、母のような姉のような、包み込む愛情を垣間見せるその子守唄は、いつまでも途切れることなく流れていた。
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