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「マスター? 眠っちゃったの?」
穏やかに日差しが降りそそぐ寝室には、ドールである彼女、アンジェリカと、その主人である老婆がいた。
幼い少女の姿をしたドールは、言葉を発しなくなった主人を眺めた。
つややかな黒髪は少しずつ真っ白になり、年を経るごとに、細く、小さくなっていった《マスター》は、皺にうもれた口元に微笑をたたえ瞼を閉じている。
「おやすみなさい、マスター」
アンジェリカはいつかマスターに教わった子守唄を口ずさむ。
ーー変わらないで。
セキュリティロックをかけたマスターからの『お願い』を再生しながら。
変わらないでと、少女だった頃のマスターは願った。皆、私のことなんて嫌いなんだと泣きながら。
優しかった両親は、いつの間にか少女よりも仕事を優先するようになった。
親友だった女の子は、少女が引っ越した後、別の『親友』を見つけたらしい。
変わってゆく。少女を置きざりにして、皆変わってゆく。
だから少女は願った。自分の大事な友達であるドールに、『変わらないで』と。
ーー静かな午後の寝室に、旧式のドールの子守唄が流れる。
時折、母のような姉のような、包み込む愛情を垣間見せるその子守唄は、いつまでも途切れることなく流れていた。
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