『白い魚』

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 ところが この物体を僕に押しつけたはずの彼女は既に居なかった    「え? あれ……」  呆然と頭を上げ周囲を見回すが がらんとした室内は 誰も居ない    急に静寂が押し寄せてくる 圧迫される 無音なのにその重力に恐怖さえ感じる  まって  今  目の前に居た人は 誰だったっけ    女の子だったような気もするし 男だったかも知れない  若かった気もするけれど 年配だったような  そもそも  どんな関係の人だったろう    友達 恋人 兄弟 只の通りすがり?  何もかもが不定型で ぐにゃりと歪む  部屋は  だんだんと暗くなる  左胸の感触は 今では感じない  そこだけ 何もない    ハッとして  見ると  白い魚は溶け込むように ズブリと埋まり  最後の透けた尾が ふるりと揺れた
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