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母を怒らせて名前を呼ばれても、別に何も満足はしなかった。
本当は喧嘩をしたいわけじゃない、そう私自身も分かっていたのだ。
ダイニングテーブルで春樹が画用紙いっぱいにクレヨンを使ってお絵描きをしているのを、私はぼんやりと眺めていた。
「あー、どうしよう」
泣きべそをかいて春樹が私を見た。テーブルの上に青いクレヨンの線が出来ていた。
「大丈夫、拭けばいいだけだから」
春樹の頭に手を乗せて、私は台拭きを取りに行った。
「どうしてお母さんはお姉ちゃんを怒るの?」
カウンターキッチンの中に入った私の方を見ながら、春樹が不思議そうな顔をしていた。いつもあんなにいじめられているのに、春樹はなぜか私にとても懐いている。
「お姉ちゃんが、意地悪だからでしょ」
「意地悪じゃないよ!」
あまりにも強い口調で言うから、私は笑ってしまった。
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