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山のふもとの駅に着くと、かなり遅い時間になっていた。今夜中には帰れないかもしれない。
山は真っ暗だし、俊太がいなくても私は登ろうと思えたのだろうか。今更ながらそんなことを冷静に考えていた。
その時、リュックに入れていたキッズ携帯の着信音が鳴った。
「お父さんからだ」
少し迷ったけど応答した。
「千秋、どこにいるんだ?俊太君と一緒にいなくなったって聞いたぞ」
「お父さん、春樹は?発作治まった?」
「いや・・・春樹は今ちょっと・・・とにかく、そんな状況なんだから、おまえらの心配までしている余裕はないんだよ。頼むから、家に戻ってくれ」
普段は穏やかな父がイライラしている。その言い方で、春樹の容態が悪いことが分かった。
電話を切って、私は真っ暗な山道を見た。
恐くないわけじゃないけど、父と母には春樹が必要なんだ、そう強く思って勇気を奮い立たせた。
「懐中電灯あるから、早く行こうぜ」
俊太が私の手を取って山道に向かって歩き出した。
こんなのを果穂たちに見られたらまた大騒ぎだな、って思ったけど、今は手を繋がないと恐くて前に進めないことは分かっていた。
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