35人が本棚に入れています
本棚に追加
「昔さ、キャンプに行った時、2人で迷子になってこうやって山道歩いたよな」
懐中電灯で足元を照らしながら、俊太が楽しそうにそんな話をした。
確か春樹が生まれる前に行ったキャンプで、まだ幼稚園児だった私たちがキャンプ場の近くで迷子になった時のことだろう。
「真っ暗な道だったのに、楽しかったな。今もそうだけど。どんな時でも、千秋と一緒だったら楽しいんだ」
小さい頃から、俊太は無邪気だった。もしもクラスの女子の前でそんな話をされたら冷やかされるな、なんて思うと苦笑いするしかなかった。
「あ、星が見える」
まだそれほど登っていなかったけど、少し広くなっている場所で雲は殆ど見えず、空一面に星が瞬いていた。
だけど、まだ流れ星は見えなかった。そう言えば、ピークは夜中だった。
「頂上じゃなくても、届くのかな?願いごと」
「空から見れば、ここでも頂上でも大差はないよ」
そう笑った俊太の言葉は最もだと思った。
星空を見ながら、発作を起こして苦しそうに涙を溜めながらも、私に何かを言おうとしていた春樹を思い出した。
それに、そのあとに向こうへ行けと怒鳴った母の言葉、父が電話口でイラついていた口調も・・・。
春樹はずっと喘息に苦しんできた。私はそれを見て来たのに、意地悪なことばかり言っていた悪い姉だ。父と母もこんな私なんて疎ましくもなるだろう・・・。
誰にとっても、あの家には私よりも春樹がいることがいいと思えた。
それできっと、父も母も喜んでくれるはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!