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「どうして、そんなことを願うんだ?」
どこかで聞き覚えのある低い声がした。
眩しい光に包まれているような気がする。私は流れ星の中にいるのだろうか?
もしかしたら、これは神様の声・・・?
「だって・・・お父さんもお母さんも、春樹が生まれてから春樹の方しか見なくなったの。それは春樹が可愛いからでもあるし、心配だからでもあると思うの。あたし、それは仕方がないって頭では思うの。だけど、哀しくて。春樹が生まれる前に戻りたいって願ったの」
何かで読んだことがある。神様の傍へいく前に、懺悔をする時間があると。きっと今がその時なんだろう。
「だけどね、春樹が発作を起こして救急車で運ばれた時に、とんでもないことになったと思ったの。だって、春樹は生まれてからずっと、頑張って喘息と戦っているの。春樹の方が可愛いって思うの当たり前だよね。あたしはいつも憎まれ口ばかり叩いて、春樹が生まれてくる前に貰っていたお父さんとお母さんの愛情が当たり前だと思っていたの。ただ、それを取り返したくて。子どもだったの」
「11歳はまだ子どもだろう。親からの愛情は必要なものだ」
「うん。だけど、いなくなるならあたしの方がいいの。春樹はみんなを笑顔にするけど、あたしはみんなを怒らせるから」
神様が泣いていた。顔はよく見えないけど、確かに神様が涙を流している、そう感じた。
「だから、春樹を助けて。代わりにあたしを連れて行って」
「・・・2人とも家に帰るんだよ」
「そっか・・・。じゃあ、春樹の喘息を治してね」
私の言葉はどこか宙を舞って耳から離れていき、そのまま意識が遠のいていった。
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