プロローグ

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 最近、母とは衝突が多い。「まだ5年生なのに、思春期かしら?」と、母があちこちで漏らしているのを知っている。  春樹の誕生で今まで当たり前だった私の世界が、母の関心がいつも体の弱い弟へ注がれることで崩れてしまったのだ。  それまで私の方を見ていた母の視線は常に弟へ向き、私が呼ぶまでこちらへは戻って来ない。以前はそんなことばかり気にしていた気がする。 「春樹、今夜は曇り空だって。だから、流星群なんて見えないの」  意地悪くそう言うと、春樹の泣き声と「千秋!」と怒る母の大声を背中に聞きながら、リビングのドアを閉めた。  春樹が生まれてから、母は私をお姉ちゃんと呼び、お姉ちゃんとして扱う。怒っている時だけ千秋と呼ぶ。  彼女の中で私は春樹の姉でしかなく、だけど、腹が立つと可愛い春樹からは離れた、千秋という個人になるのだ。  思春期は自分を認められたい時期だと聞いたことがある。だとしたら、私はわざと反発して個人である自分を母に認めさせようとしている、という理屈で思春期の反抗と言えるのかもしれない。
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