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プラネタリウム
「青コォナー、ペガサスゥー、菊池ぃぃー。」
「赤コォナー、ペガサスゥー、菊池ぃぃー。」
四角いマットの両端にすっくと二人の女子レスラーが立ち上がった。
途端に彼女達を取り囲む観客から「わあっ」とひときわ大きな喚声が上がる。文句なしのメインイベント。向かいあった二人は互いに目を逸らそうとはしない。
どちらもメイクが同じならば髪型も同じ、八頭身美人でコスチュームまで同じである。まるで双子が向かいあっているようだ。どちらもニセモノとは思えないオーラをまとっている。
ではなぜ二人は同じ名前でコールされているのか?その話をこれからさせていただきたい。
にわか景気で盛り上がる名古屋市のど真ん中に、東海地方最大の商店街がある。大須観音を起点とした大須商店街である。
この街は常に新陳代謝を繰り返し、様々なものが泡のように浮かび上がっては消えていく。
しかしその奥まで入っていくと、取り残されたように建つ古ぼけたビル街の一画に閉鎖されたパチンコ屋がある。
一見忘れ去られたようなこの建物だが、週末の夜になると、目をぎらつかせた男達がそこの地下室に吸い込まれていく。
彼らの目当ては、地下室で繰り広げられる女同士のプロレスだった。
プロレスといっても部屋の真ん中に四角いマットが置かれただけの、とてもリングとは言えないところで彼女たちは闘っていた。
男達はマットを囲み、最前列の男達には水鉄砲が手渡された。彼らは女たちにふざけて水をかける。
飛び交う水のなかで、彼女たちはびっしょりと濡れながら闘うのだ。男たちはそれを見ながらあざけ笑い、そこは猥雑な雰囲気に満ちあふれていた。
WUPN(ウーマンズ・アンダーグラウンド・プロレス・イン・ナゴヤ)。これが彼女たちに与えられた称号だった。
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