裏切らない味

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クイズ番組が終わり、次は芸能人のお宅訪問の予告がしていたのでチャンネルを変えたい気分だったが、アイスを食べてホッしてるとCMの後映ったのは見覚えのあるボロい一軒家だった。 「えっ?!これ彼の家……」 鍵が掛けづらくなってる引き戸の玄関を、ガタガタと音をいわせて閉める光景を隣で見ていたので後ろ姿と家で間違いないと食い入るように見つめていた。 音は殆ど聞こえないが、彼は外に出ると病院に向かう道をまっすぐ歩き、途中喫茶店に入って時間を潰しながら煙草を吸うのが日課だがそれも変わってない。 懐かしい道や景色や彼の姿を見れた上に向こうから全く気付かれてないので、透明人間になって同じ空間にいると錯覚しそうな位だ。 精神的な病気の為顔周りはコケた感じだが、基本前向きな性格だったので髪の色を明るくしてサングラスをかけてるのを見ると変わってないな…としんみりと鑑賞していた。 病院の帰りはまっすぐ帰宅してるし、翌日の買い物はお母さんと一緒で一年近く経ってもどうやら彼のサイクルも変わってないようだ。 はじめ彼の自宅が映った辺りでそれなりの覚悟は決めていた。 外出する時も隣には新しい彼女が居て、消したくなるような現実を見せられると思ったからだ。 自然消滅のきっかけは私から連絡するのを止めたからだし、彼は『こんな状態ですぐ一緒に住めなくて申し訳ない』とボソッ言った事もあった。 ただ当時は気持ちに余裕がなかったのもあり、最後の電話はキツイ事を言った記憶もある。 私が職場にストレスを感じて一週間で辞め『まただね…』と言われたショックで『復帰して働いたら気持ちが分かるよ』と口から出てしまったのだ。 それから何となく連絡がしにくくなり、向こうからも一切音沙汰がないまま一年以上の年月が経過してしまった。 金銭面や気持ちに余裕があれば、すぐに向こうに行って生活を始めるか謝る為に会いに行く事だってできたのにそれをしなかった。 倒れてから三年経つ彼が未だに職場復帰出来ないので『もうだめなのかな』と諦める気持ちと『好き』が混ざり葛藤の末期間がジワジワと増えた感じだ。 連絡を取る手段は断ち切ってないのにそうしないのは、お互いにそう思ってる部分もあったのだろう。
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