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いつも一緒に居るのに、私が来た時まで息子に甘えてくるなんてワガママとか、こんな感じで同居したらと想像するのも嫌になっていた。
彼は『離婚した時に一人で育ててくれたから』と優しく答えるが、おばさんは夜の仕事の送迎に息子を使い、当時付き合ってた彼女も母の呼び出しが原因で別れたという話も聞いた事がある。
マザコンといえばそれまでかもしれないが、子離れ出来てない親は、女性の恋のライバルよりずっと手強くて、身内という強力な糸で結ばれてる以上絶対に断ち切れない。
私も好きで彼も好きでいてくれるのは伝わってきても、現実を見据える自分とのギャップが、溝となってきたのもその頃かもしれない。
数か月に一回の単位で新幹線に揺られ、精神的な病にかかった彼はいつ働けるのか私と一緒に暮らそうと言ってくれるのか等…不安は膨らんでいく一方。
一人暮らしの私はテレビ電話を切った後や、寝る前は孤独感がドッと押し寄せ、自分の気持ちに余裕もなくなると、仕事を辞め派遣会社で短期の職場を転々とするようになっていた。
そんな私の唯一の楽しみはお風呂上がりのアイスクリームだが、期間は限定されていて3月下旬から11月までの一番おいしい時期に解禁する事にしている。
高校を卒業し春休みに映画を見に行った時、路面にオープンしたアイスクリーム屋に入ったのがきっかけだった。
『フォックスベリー』というネーミングには胡散臭さを感じたが、メニューに並んだアイスはどれも美味しそうでチーズストロベリーを食べた時の感動は未だに忘れられず現在に至る。
いい事があった時のご褒美は『チーズストロベリー』気分が落ち込んだ時は『チョコチップアンドナッツ』酸味が恋しくなったら『モアベリー』と制覇してる私にとって堪能の仕方にも決まりがあるくらいハマっている。
「フォックスベリーで働けば?」
友達や彼にもよく言われたセリフだが、提供される顧客でありたいと、定番の味を楽しみつつこの時期限定の新作も興味深々だった。
昼間暖かくなってきて桜の季節が終わるころ、お風呂上がりのアイスは盛り上がりを見せてくる。
窓を開けて間接照明だけにすると、運がいい日は星を眺める事ができ、最高に贅沢な時間の始まりとなる。
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