裏切らない味

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裏切らない味

『あの日違う決断をしてたらどうなってただろう』 別れたというか自然消滅した彼を思い出してしまうのは、決まって星が綺麗な夜にアイスを食べた日だ。 あれから新しい彼を作る事もなく引きづってるのかもしれないが、どこかで『戻れるかも』と思わせるような中途半端な終わり方。 そんな選択をした自分の罰という気持ちもある。 今まで出会った人と違うと言えば、優しくて前向きなところ。 目立って特徴的な所もなく、少し背が高い程度だし探せばそこら辺にいそうな雰囲気だ。 彼は田舎に住んでいて、イベント会社に勤めていたが病気で倒れてしまい、その少し前から付き合いだした私。 しっかりと向き合えなかったというのが、本音だと思う。 新幹線で二時間弱の距離は会おうと思えば行けるが、交通費を考えると頻繁に向かうのは、財布との相談が必要だ。 彼は倒れる数日前に離婚した母を引き取ってしまい、暮らすとなればいきなり三人生活になるのもネックの一つだった。 マンションではなくボロの一軒家を借りているので狭さの問題はないが、精神的にうんと返事するのにブレーキがかかる。 彼の生活が不安定で、私の貯金も僅かなのに、好きという気落ちだけで一緒にいても、壊れてしまうのは目にみえて想像できた。 それでも三年近く付き合い、彼の所に行く時は初めは三日泊まりだったが、倒れてからは有休を使って一週間のペースだった時もある。 ずっと近くでベッタリして、将来の話をして手をつないで……いつも楽しかったし、この時間を終わらせたくなかった。 一緒に寝てる時も、何度も目を開けて夢じゃないと確認をした程好きだった。 帰りはいつも最終でギリギリまで一緒にいて、新幹線のドアが閉まる時はいつも涙が出ていた。 でも精神的な病気で倒れた彼は『一緒に暮らしたい』とは言ってくれても、金銭的には仕事が出来る状態でないと困難だというのは分かる。 大好き…でも一緒に暮らすには障害をいくつも超えて行かないと無理で、三年目を迎える頃には会うのが辛くなっていた。 一緒に居る時はお母さんは妹さんの所に泊まり、二人だけの時間を楽しむが、電話はかかってくるのでそれも憂鬱な気分になっていた。
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