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紙面の見出しに大きく書かれた『恋愛感染症患者三千万人越え』という文字を見るなり、K市立K高等学校の生徒会長は手に持っていた新聞紙をデスクの上に投げ置いた。そうして息を吐き、座っているイスの背もたれに身体を預けて生徒会室を一望すると、同じ空間を共有している副会長に向けて声を掛ける。
「なあ、訊きたいことがあるんだが、いいか?」
威厳の欠片もない声音で尋ねると、副会長である女子生徒は書類作業から視線を持ち上げて、会長の方へと顔を向けた。艶やかな黒髪がゆれて、無垢でまるい瞳が疑問をあらわにしている。
「ええ、どうしました?」凛としていながらも柔らかい態度で、彼女はそう返事した。
「どういうわけか、ここ数日、書記君と会計さんの姿が見えないんだが……」会長は歯切れ悪く言って、改めて生徒会室内を見渡してみるが、必要最低限の物しか置かれていない整然とした部屋には会長である彼と副会長の二人しかいない。「仕事をサボって、あの二人はいったいどうしているんだろうか」
会長は制服のポケットから携帯を取り出して連絡の有無を確認するが、表示される画面は一向に変化を示さない。休む場合には連絡を入れろと指導しているにもかかわらずこれだ。自分には生徒会長なんていう肩書きに見合うほどの威厳はないらしいことに気が付いた彼は、どこかやるせない気持ちに駆られて遠い目を天井に向けていた。
別に生徒会の仕事が忙しい時期ではないので、サボられて困る、というわけではなかったが、それでも無断で欠席するというのは悲しくもなった。
彼は、他人の言動に対して憤りを覚えてストレスを抱えるタイプの人間ではなく、どうちらかと言えば、悲しみを感じる性質だった。怒りという感情をさらけ出さないため、よく周囲からは「優しい人」と言われるが、けっしてそういうわけではなく、ひとりで哀愁を感じているだけであり、他人の迷惑行為をすべて受け入れているわけではない。今回の面でも同じように、無断欠勤という行為に悲しみを感じている会長は、行き場のない悶々とした思いを抱えながらも、上手くはけ出せないでいる。
「ああ、それでしたら」と副会長が可愛らしい仕草で言う。「少し前に連絡がありましたよ。会計さんの方は、なんでも、好きな男の子を追跡調査する必要があるから休みます、ということだそうです」
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