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「御年六十になる校長夫婦がラブラブって……。まあ、見方を変えれば微笑ましくあるかもな」
恋愛感染症は、年齢や性別を問わずにその猛威を振るうようで、今K市の街中を歩けば、恋に盲目となった人間たちの言動が嫌というほどあふれている。ちなみに、会長は両親が家でいちゃいちゃしている姿を見せつけられ、非常に複雑の気分のまま布団に入り、二日ほどろくに眠れなかったという忌まわしい状況に陥ったこともある。
「ええ、私はとっても素敵だと思いますよ」副会長はふんわりと口元を緩めて言った。「人同士の関係性の希薄化が危惧されている現代だからこそ、他人のことを想うこの対処不可能な感染症というのは大きな意味を含んでいるのかもしれません。年老いてもお互いを愛し合うことができる――――ちょっとロマンチックじゃないですか?」
「そうかね」と会長は苦々しく目頭を押さえた。「いや、しかしだな……。両親が親睦を深めている光景を目の当たりにするというのは、結構ショックを覚えたぞ? 恋にうつつを抜かすのが悪いことだとは言わないが、周囲を顧みないというのはいかがだろうか……」
「いいじゃないですか。会長に兄妹が増えるかもしれませんよ」あどけない笑顔でそう言う彼女だったが、会長の胸は複雑に揺れていた。というのも、清楚で可憐で無垢な彼女の口から子作りの話題を聞くというのに、少しばかり背徳感みたいなものを感じるからであった。
誰にでもイメージというものがある。会長が副会長に対して抱いているイメージというのは非常に自分勝手なものであるというのは彼自身自覚はしているが、しかし、内在しているイメージが崩れてしまうというのはやはり不安を感じるし、嫌なものである。
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