恋愛感染症

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 そう、彼にとって、副会長は聖書に出てくるマリアも同然の存在だった。穢れのない黒髪に、初雪を想起させるきめ細やかな素肌。二重に開けた瞳は機知に富んでおり、それでいて優しさを含んでいる。顔を組み立てているパーツの配置に寸分の狂いはなく、どれも巧緻で、瑕疵などまったくない。  加えてプロポーションも完璧だ。女性のボディというのはウエストとヒップの比率が〇・七であるのが最も魅力的だという研究結果があるが、彼女はそんなデータ的な数値など一切の意味を持たないほどに魅力的で、妖艶で、蠱惑的な体つきをしている。笑顔も素晴らしい。物腰も柔らかで、性格にも欠点はない。教養もあって、その慧眼には生徒会の仕事面でも助けられることが多々あった。才色兼備、まさに理想像とも云える女性である。  しかしながら、以前、会長がこのことを書記へと語った際に「清楚で無垢って言っているのに、妖艶とか蠱惑的とか意味わからないっすね」と失笑されたことがあった。まさに愚昧である。書記の意見は間違いだと会長は知っていた。事実、副会長という一人の人間の中には、これら女性を褒めたたえる言葉すべてが内在しているのである。  要するに、彼女は美しいのだ。もう一度言おう、彼女は美人なのである。もはやお手本のような大和撫子なのである。だからこそ会長は、彼女の口から下ネタ関連の言葉を聞くのは、イメージのゲシュタルト崩壊的な感じでためらわれる部分があったわけだ。 「しかし、あれだな」会長は話題を逸らそうと、ごまかすように口を動かした。「これだけ感染が拡大しているのに、俺たちだけ感染していないというのも何だか変な話だな」 「それは私も不思議に思います」にこりと相好を崩す副会長は、茶目っ気たっぷりの声音で言う。「私はともかく、いろんなな方と触れ合う機会のおおい会長がご無事なのには少々驚きを隠せません」
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