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「ああ、僕はね、恋愛なんてものには興味がないんだ。……いや、この言い方だと嘘になる。興味うんぬんというよりも、学生の本分は、学業であるべきだと思っている。だいたい幸いなことに、恋愛すべき対象がいないし、そもそも、生徒会の仕事があって情事に耽っている場合ではないというわけさ」
「ということは、会長はこれからも罹患することはなさそうですね」副会長はくすりと笑う。
「ああ、安心してくれて構わないよ。書記君や会計さんのように、色事に夢中になって仕事をサボるなんてことはしないからさ。そもそも、だ。恋愛なんていう情緒的な行動は、生物学的にも合理的でないんだよ。種の存続を考えたらうんたらかんたら――――」
と――――えらく饒舌になった会長であるが、ご察しの通り、言っていることすべて嘘である。というか、言い訳だ。実のところ、彼はすでに恋愛感染症にかかってしまっている。そう、隠しているのだ! 思春期らしい羞恥心に駆られ、恥ずかしいという一心で周囲の人間に隠しているのだ! ただ、すこし奥手で気弱で慎重型であるため、感染症という後押しがあり、恋愛の衝動に駆られても、副会長への純情な想いを素直に思いを打ち明けられず、ひらすらに悶々と胸の中にしまっていることしかできないチキン野郎なわけだ。第三者がみたら、きっと思うことだろう。「ああ、なんて面倒でしみったれた野郎なんだ!」と。
恋愛感染症に罹患して、本心では恋愛に夢中になりながらも、彼がこうして生徒会室に足しげく通っている理由は簡単だった。副会長に会いたいからである。ただそれだけの理由である。
「だいたい、恋の高揚感なんてものはドーパミンやセロトニンが大量に放出されて前頭葉の一部を活性化しているに過ぎないし、そもそも――――」
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