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「でも、会長」と副会長が諭すようにやさしく口を挟んだ。
「恋愛をすると、脳の処理速度が上昇するという研究結果もありますし、モチベーションの維持にもつながります。精神的に支え合える間柄となれば心因性のストレス軽減にもなりますし、それほど悪いことばかりでもないかと思いますよ? 確かに、恋にまっしぐらになってしまい、他の事に気配りできないというのはいただけませんが……そういった人はごく少数です。知っての通り、感染症が広まっても社会は正常に機能していますし、学校をサボる人も、仕事を休む人もほとんどいません。会長が言うほどに忌避すべき事態ではないと、私は思っていますよ。むしろ国全体が活気に満ちて、経済の活性化すら考えられるのではないでしょうか」
「あ、ああ……そうだな……そうかもしれないな……」半ば気後れしつつも納得する。これが書記や会計相手であれば躍起になって反駁したであろう会長だが、副会長にはとことん甘い。それは自分でも気が付いているが、「それが男の性なのだろう」と勝手な解釈で自意識をむりやりに納得させているわけだ。なんて意思の弱い男なのだろう、と彼をなじることができる男性はいるだろうか? 悲しいことに、可愛い子の前では男なんてとことん無力なのだ。それはもう、二次元のカワイ子ちゃん相手に夢中になる子どもっぽい大人たちが、ありありと証左を示してくれている事実だろう。
「そうですよね、うん、会長もそう思いますよねっ?」
どういうわけか、副会長が妙に浮かれた様子を見せた。楽しげに頬を上気させて、ぱっちり開いた目を喜々として向けており、会長はどきりとたじろいでしまう。
「あ、ああ……うん。そ、そうだな」
彼の上擦った声など意にも介さず、そうですよねー、と嬉しそうに繰り返す副会長は、傍に置いてあった自分のカバンから妙な個体物を取り出して、会長のほうへと掲げてみせた。
「なら、これを使ってみませんか?」副会長は意気揚々とした声で言い放つ。
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